質量分析によるメタボローム解析


1.主要な研究の概要

ポストゲノム時代において、ゲノム(genome)解析は勿論、トランスクリプトーム(transcriptome)解析(mRNA網羅解析)そしてプロテオーム(proteome)解析(タンパク質の網羅解析)も手法的にほぼ確立され、次々に研究成果が報告されています。こうした研究の進展とともに、これらの “-ome解析” からだけでは生命現象を把握できないという認識が生まれました。今や、代謝物の網羅解析、すなわちメタボローム解析が生物機能の理解に欠かせないことがコンセンサスとなっています。しかし、-ome研究の中ではメタボローム解析は手法的にまだ確立されていません。従来の代謝物分析というのは、あらかじめ分析したい代謝物質のターゲットを絞り、その物質に適した抽出と検出を行うことでした。しかし、メタボローム解析で求められるのは、ある瞬間・ある条件下にどのような代謝物がどのくらい生体に存在しているのかという網羅的情報です。従って、多岐にわたる膨大な数の代謝物質を短時間に測定・同定・定量できることが要求されます。この要求に応えられる測定機器として、超高性能な質量分析装置に期待が集まっています。分子量は基本的に物質に固有の値ですが、近い値を持つ化合物はたくさん存在するため、物質の同定にはできるだけ精密な質量数の情報が必要とされます。質量分析により、代謝物のより精密な分子量が得られれば、それが何という物質であるのかという絞込みが容易になるからです。精密な分子量が得られる

  質量分析によるメタボローム解析 

だけでなく、分子構造情報が得られれば、絞込みはさらに容易になります。分子構造情報を求める手法の1つはMS/MSやMS nです。そこで本研究室では、これらの測定に威力を発揮するLCMS-IT-TOF装置(写真)を主に用いてメタボローム解析法の開発を行っています。現在は主に微生物を用いてメタボローム解析手法の開発に取り組んでいますが、今後は対象とする生物・サンプルを広げていくつもりです。また、質量分析法が有力な解析手法となっているもう1つの-ome研究であるプロテオームにも取り組んでいます。

質量分析によるメタボローム解析 

2.主要研究論文

1) Yukiko Tsuji, Kazuhiko Fukushima
“The behavior of monolignol glucosides in angiosperms”
J Agric Food Chem. 52, 7651-7659 (2004)
2) Yukiko Tsuji, Fang Chen, Seiichi Yasuda, Kazuhiko Fukushima
“The behavior of deuterium-labeled monolignol and monolignol glucosides in lignin biosynthesis in angiosperms”
J Agric Food Chem. 52, 131-134 (2004)
3) Kaori Saito, Toshiyuki Kato, Yukiko Tsuji, Kazuhiko Fukushima
“Identifying the Characteristic Secondary Ions of Lignin Polymer Using ToF-SIMS” Biomacromolecules, 6(2), 678-683 (2005)
4) Yukiko Tsuji, Fang Chen, Seiichi Yasuda, Kazuhiko Fukushima
“Unexpected Behavior of Coniferin in Lignin Biosynthesis of Ginkgo biloba L” Planta, 222, 58-69 (2005)

3.主要な研究手法、技術

主に質量分析装置を用いたプロテオーム・メタボローム解析を行っています。使用している質量分析装置は、LCMS-IT-TOF、MALDI-TOF-MSのほかに、当センター客員教授である高橋勝利博士と共同で、FT-ICR-MSを用いたメタボローム解析の手法開発にも精力的に取り組んでいます。