専門分野:分子栄養学、ポストゲノム科学、神経科学

疾患モデル動物を利用した代謝-遺伝子発現制御系ネットワークの機能解析

主要な研究の概要
セリン合成不全疾患モデルマウスのOmics解析

 細胞内での代謝物の量的変動は核内に伝えられ、転写応答/蛋白質発現を導きます。この様な代謝と転写翻訳制御系との相互作用は、微生物から動物に至るあらゆる生命体の生存と機能を支える基本システムです。当研究室では高等動物組織の形成と高次機能発現に重要な役割を果たす代謝物・遺伝子・蛋白質各階層を横断するネットワークシステムの実体を、分子レベルで解き明かす事を目指しています。具体的には、中枢神経系の発達と高次機能に不可欠なアミノ酸であるセリンを中心とした代謝機能ネットワークに焦点を当てています。セリンは蛋白質の素材であるだけでなく、細胞膜脂質や、グリシン等他のアミノ酸の前駆体であり、セリンに由来する多様な代謝物は、細胞内代謝に広範かつ重要な役割を果たしています(図1)。

動物細胞におけるセリンの合成・代謝マップ 
    図1 動物細胞におけるセリンの合成・代謝マップ

 私たちはセリン合成酵素Phgdhの発現解析から、発達期神経系でセリン合成が極めて活発であることを見いだしました。さらにPhgdhを不活性化したノックアウト(KO)マウスを独自に作成し、セリン合成能を失うと脳形態形成異常と神経機能不全に陥る事を明らかにしました。このKOマウスはセリンの枯渇によって脳の発達を支える代謝機能ネットワークが破綻しているのです。ヒトにおいても重度の脳神経発達不全を伴ったセリン合成不全疾患が発見されています。
 当研究室ではPhgdh遺伝子を改変した各種セリン合成不全疾患モデルマウスにおける代謝物、遺伝子、蛋白質の網羅的発現解析(Omics)を行っています。それらの統合から機能ネットワーク構造を抽出し(図2)、セリン代謝と遺伝子発現系をつなぐ動的制御機構の同定と機能の解明を目指しています。
 セリンに関連した代謝機能ネットワークが同定できれば,それを基盤にした代謝システムデザインを行い、遺伝子改変マウスを評価系として組織機能強化や疾患予防を志向した機能性食品等の開発などの応用研究も進めます。
 さらにバイオアーキテクチャーセンター内外の研究グループと協力しながら、遺伝子改変マウスのシステムバイオロジー的解析技法の開発も行います。

Phgdh KOマウスの網羅的遺伝子発現解析から抽出されたネットワーク 
図2 Phgdh KOマウスの網羅的遺伝子発現解析から抽出されたネットワーク

2.主要な研究論文、著書

1)  Furuya, S., Tabata, T., Mitoma, J., et alL-Serine and glycine serve as major astroglia-derived trophic factors for cerebellar Purkinje neurons. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 97, 11528-11533  (2000).
2) Furuya, S. and Watanabe, M. Novel neuroglial and glioglial relationships mediated by L-serine metabolism. Arch. Histol. Cytol. 66, 109-121  (2003).
3)  Yoshida, K., Furuya, S., et al., Targeted disruption of the mouse 3-phospho-glycerate dehydrogenase gene causes severe neurodevelopmental defects and results in embryonic lethality. J. Biol. Chem. 279, 3573-3577 (2004).
4)  古屋 茂樹, 吉田 一之, 平林 義雄. DNAチップ活用テクノロジーと応用, III編 発現解析と機能解析, 第1章モデル動物 4.マウス, 久原哲編, CMC出版, pp118-130  (2006)
5)  古屋 茂樹. セリンは神経細胞の必須アミノ酸である. バイオサイエンスとインダストリー, 64, 27-29 (2006). 

3.主要な研究手法、技術

トランスクリプトミクス,プロテオミクス、メタボロミクス、バイオインフォマティックス、遺伝子工学、ノックアウトマウス