専門分野:バイオインフォマティクス

研究課題:生物機能デザインをめざすシステム生物学の確立


主要な研究の概要

20世紀末から21世紀初頭にかけて急速に進められてきたゲノムプロジェクトは、生物学に「構造から機能へ」、「定性から定量へ」といった課題を課すとともに、システム生物学にも新たな課題を提示してきています。それはゲノムから細胞(さらには組織、器官、個体)にいたる生命機能を重層的、体系的に解析するための数学的ネットワークモデルの構築とその実験的検証および予測です。
ゲノムプロジェクトは生命機能発現の基本要素である遺伝子(および遺伝子産物)を分子として網羅的かつ体系的に記載してきました。そして今、それら個々の分子の構造、空間的配置、時間的変化を明らかにする研究とともに、機能を明らかにする研究が進められています。「分子の機能」をいかに記載するかは困難な課題ですが、「分子の機能とはその分子がいかなる分子と相互作用するかのカタログである」との考えがあります。その考えによると機能を、個々の分子ではなく、分子集団からなるネットワークとして把握しようとします。ここでは遺伝子の機能と細胞の機能との間にそれほどの溝はなくなります。最初の問題はどのように数学的モデルを構築するかにあります。遺伝子や細胞の機能を解析する場合には、例えば、転写制御、シグナル伝達、代謝といった重層的ネットワークが考えられ、個々のネットワークはよく確率微分方程式系あるいは常微分方程式系、代数方程式系としてモデル化されます。それら方程式系による記載可能性と妥当性、そして解法の容易性を考慮して、ネットワークの数学的モデル構築手法の研究が進められます。ついで、それら個々のネットワークを重層的、体系的に解析するためのモデル統合が必要になります。細胞機能を改変したり、設計したりする研究を代謝流束解析によって行っている研究にとって、例えば確率微分方程式系を用いた遺伝子の転写制御解析とのモデル統合が必要な理由はそれほど自明ではありません。しかし、遺伝子レベルでの設計/改変により代謝レベルさらには細胞レベルでの生物機能のデザインを行うためには遺伝子から代謝、細胞に至るメカニズムの重層的、体系的シミュレートは必須と考えています。一般に、理論生物学に比べ、システム生物学ではそのモデルの妥当性を実験的検証および予測能力の検証によって明らかにすることが特に強く求められます。バイオアーキテクチャーセンターはモデル構築から実験的検証および予測能力の検証までを行いやすい研究体制が整えられています。このことが世界に誇りうるバイオアーキテクチャーセンターの特徴になっています。

バイオインフォマティクス
 図 細胞内機能モジュールのネットワーク・アーキテクチャー

F.Collinsは2001年2月の国際会議で「2030年代には、ヒト細胞が完全にシミュレートでき、コンピュータに基づく研究が主力になる」と予想し、D.HanahanとR.A.Weinbergは、雑誌Cell(2000)で「これからの20年間で、細胞機能がどのように変化し、癌が誕生するのかを、細胞の数学的ネットワークモデルを用いて検証することができるだろう。」との期待を表明している。これら長い道のりの前に、多くの原核細胞や真核細胞、多細胞生物で「計画されたデザイン」が可能になります。(注:図中のグラフは確率過程としてとらえたmRNAとそこから転写される蛋白質の細胞内存在量の時間変化を示す。)


主要な研究論文、著書


1) 江口至洋、陶山明、上田裕三、和田昭允:コンピュータによる核酸塩基配列の解析(上)、蛋白質・核酸・酵素、28、923-942 (1983)
2) 江口至洋:蛋白質工学の物理・化学的基礎、共立出版 (1991)
3) Eguchi Y, Seto Y.: Prediction of the functional sites in amino acid sequences, Genomic Informatics Workshop III, 77-80 (1992)
4) Maki Y, Tominaga D, Okamoto M, Watanabe S, Eguchi Y. : Development of a system for the inference of large scale genetic networks , Pac Symp Biocomput. 446-58 (2001).
5) 宮野悟,江口至洋,金久實,高木利久,中井謙太(編):「バイオインフォマティクス事典」、共立出版(2006)


主要な研究手法


技術細胞を機能モジュールの集合体として把握し、個々の機能モジュールのシミュレーション研究を進める。さらに、細胞機能をシミュレートするためのモジュールの統合化方策を検討する。